大手町・丸の内・有楽町の人々にスポットライトをあて、この“まち”の現在・過去・未来を紐解いていきます。
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パタゴニアが丸の内から伝える、地球を救うためのビジネスとしての責任

パタゴニア 東京・丸の内
ストアマネージャー 野原梨香さん

「サステイナブル」「SDGs」という言葉が日本に浸透し、人々の環境への意識が高まりつつある昨今。しかし、1973年の創業当時から高い環境意識を持ち続け、世界でもっとも「責任ある企業」として知られているのがパタゴニアです。環境問題に取り組むパイオニアとして丸の内からメッセージを発信する意義、これから街とともに歩みたい未来について、ストアマネージャーの野原さんにお話をお聞きしました。

裏通りから表通りへブランド初の試みだった丸の内店

アメリカに本社を置く世界的アウトドア企業、パタゴニア。1973年の創業当時から地球の健康を目指すことを目的とし、ビジネスはあくまで手段であるというスタンスを貫いています。日本支社が設立されたのは1988年。当時、日本国内ではバブル景気が過熱し、人々の関心は「消費」に向けられ、今ほど環境への関心は高くはない状況。そんな中、パタゴニアは一貫して環境へのメッセージを発信し続けました。

「パタゴニアでは『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む』を、ミッションに掲げています。スタッフ自身の声で、環境に対するメッセージをお客様にお伝えするべきだという理由で、日本支社として事業展開を始めました。アパレルビジネス自体が持続可能=サステイナブルではない、というのが私たちの考えです。社会や環境に対し責任を果たす企業として、フェアトレードやリサイクル素材を使った製品を作ることは続けていますが、パタゴニアだけが行動をしていても環境課題は解決しません。

東京・丸の内店がオープンしたのは2013年。当初は約1年間の期間限定ストアでしたが、その後、2014年に常設ストアとして現在の店舗がオープン。丸の内を直営店の場所として選んだことには、こんな背景があるそうです。

「環境課題を解決するためには、ビジネスパーソンや様々な企業の方とつながることが必要と考え、丸の内へ出店しました。これまでパタゴニアの店舗は基本的に裏通りに出店することが多く、表から一歩引いた場所でアウトドアを楽しむ方にメッセージをお伝えするというのがコンセプトでした。しかし、丸の内ストアはあえて表通りに面することで、これまでお話しをする機会がなかった方々と接点を持ち、一緒に環境危機を解決していきたいという想いがあります」。

丸の内店が期間限定ストアとしてオープンしたタイミングで、創業者のイヴォン・シュイナード氏がこれまでの経営についてまとめた『レスポンシブル・カンパニー』(ダイヤモンド社)を上梓しました。野原さんは、何かあればこの本に立ち返ると語ります。

「当時、丸の内店でも大きく打ち出していた書籍なのですが、一般的な経営論ではなく、企業の歴史から学んだ『私たちが守らなければならない責任とは何か』ということが書かれています。面白いのは、地球のためにすべき行動がチェックリスト化されていること。事業の健全性を保つために企業が守るべき項目から、『コピー機のデフォルト設定を両面コピーとする』など、誰でも簡単に取り組めるアイデアまで、細かいけれど大切なことが23ページにわたり網羅されています。環境に対する意識が強いスタッフばかりなので、この本を指針にしているメンバーは私以外にも多いと思います」。

丸の内の「街」を通じて、環境意識の輪が広がった

大手町・丸の内・有楽町エリアを起点にSDGs達成に向けた多様な活動を推進するプロジェクト「大丸有 SDGs ACT5」にも参加しているパタゴニア。プロジェクトの5つのテーマ、「サステナブル・フード」「気候変動と資源循環」「WELL-BEING」「ダイバーシティ&インクルージョン」「コミュニケーション」のうち、「気候変動と資源循環」に取り組み、「衣類修理サービス」を提供いただきました。

「パタゴニア日本支社では1998年にリペア部門が設立し、その以前から修理サービスを行っているのですが、『大丸有 SDGs ACT5』をきっかけに、より多くの方々に知っていただく機会が得られました。サービスを利用して20年以上製品を使い続けている方もいらっしゃるほどなんです。そういう話を添えて製品をご紹介すると、皆さま驚かれて『私も長く使おう!』とおっしゃってくださいます。こうして少しずつでも確実に意識の輪の広がりをみることは嬉しく思います」。

他にも、店舗ごとにこんな取り組みも行っています。

「パタゴニア全社で2025年までにゼロ・ウェイスト(埋め立て地行ごみゼロ)を達成するという目標を掲げています。店舗で出たゴミは素材・種類ごとに細かく分類し、月ごとに計測を行い可視化しています。それにより個人の行動変容、店舗オペレーションの見直し、本社で調達の見直しも行い、年々ゴミの量を減らすことができています」。

さらに、地球の未来のために丸の内の近隣店舗を巻き込んだ施策も。

「昨年の衆議院議員総選挙の際は「私たちの地球のために投票しよう。」というキャンペーンを実施し、ご賛同頂いた取引先様114社の方々とともに生活、経済、社会の基盤である地球のために投票することを呼びかけました。同時に、クローズドのイベントでしたが、Allbirdsさん、and wanderさん、Goldwinさんなどをお呼びしてオンラインでスポーツコミュニティーについてセッションを行う機会を設けました。場所にとらわれることではありませんが、このエリアだからこそ同じ意思を持った店舗が繋がれて、未来にアプローチできるというのは、とても魅力的ですし、今後も盛り上がっていくだろうと思います」。

体験型イベントも増やし、丸の内から多くの方にアプローチしていきたい

パタゴニアは、現在、アパレル以外での環境へのアプローチも積極的に行っています。

「“新しいジャケットは5年か10年に一度しか買わない人も、一日三度の食事をする。我々が本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べ物だ”という創業者の言葉もあり、日本では2016年から食品部門を開始し、丸の内店でもしっかり展開しています。オーガニックのスープやシーフードの他、『カーンザ』という長い根で炭素を吸収する多年草を使用したビールなども販売しています。リピーターのお客様も多いです」。

これからも環境問題を発信する場として、丸の内とさまざまな施策に取り組みたいと語ります。

「丸の内店では、それまでの店舗とは違ったお客様と出会うことができ、休日はファミリーでお越しになるお客様も多いので、さまざまな年代の方にパタゴニアの製品をきっかけに環境や素材、製造に関わる取り組みを知って頂くことができます。
丸の内・有楽町は皇居など自然を感じられる環境もあります。今後は地域として、ショッピングだけでなく、ランニングイベントや未来をテーマにしたトークセッションなど体験型のイベントやエリアを増やすことで、より地域の魅力や各企業の先進的な取り組みを伝えられたらと考えています」。

Text: Emiko HishiyamaPhoto: Natsuaki YoshidaEdit: TOKYO GRAFFITI