大手町・丸の内・有楽町の人々にスポットライトをあて、この“まち”の現在・過去・未来を紐解いていきます。
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有楽町で育った、喫茶ストーンオーナーが語る 人の流れが変わっても、世代を超えて受け継がれる街の魅力

喫茶ストーン
オーナー 奥村眞世さん

2023年に閉館し、建て替えが決定している有楽町ビル。この1階に、1966年のビル竣工時から店を構えているのが、喫茶ストーンです。現在、この空間を守る三代目の奥村さんは、初代オーナーであるおばあ様が働く姿を見て育ったそう。有楽町で育ち、有楽町で働く奥村さんに、変わりゆく街の景色と、昔から変わらない街の魅力についてお話をお聞きしました。

ビジネスの街、有楽町で半世紀以上、働く人を支え続ける場としての誇り

モノトーンを基調としたシックな内装で、有楽町のビジネスマンの憩いの場として長年親しまれている喫茶ストーン。その名の通り「石」にこだわったモダン建築が特徴的です。初代オーナーのご実家が石材店だったこともあり、ショールームも兼ねた喫茶店としてオープンしました。

「石をふんだんに使ったモダン建築を採用しています。床は大理石を職人が一つ一つ手で割って敷き詰めており、壁には国会議事堂にも使用されている御影石を使用しています。最初は白い壁だったのですが、年を重ねるうちにたばこの煙などの着色で黒っぽい色になりました。これも喫茶店ならではの味ですよね。逆に天井はカーペット素材で、床や壁と対照的なソフトなイメージ。防音効果も高く、機能性も兼ね備えています。ありがたいことに建築関係でメディアに取り上げていただくことも多いんです」。

とは言え、建築もデザインも、さらには飲食店に関しても初代オーナー始め、奥村さんのご家族は意外にも素人だったと語ります。

「祖母は、早くに祖父を亡くしたこともあり、周囲の勧めがきっかけで店をオープンしたんです。祖母は開店するにあたり、新橋の小規模な喫茶店で修行をしていたので、人通りが多いビジネス街に出店することを決めたそうです」。

奥村さんが店頭に立つようになったのは、約20年前。おばあ様の下で働き、ストーン流の接客を学びました。

「やはり、開業当時からビジネスマンの方に多くご来店いただけるので、ビジネスのサポートとなる接客は肌で覚えましたね。例えば、お昼休みは時間内に帰ることができるよう、スピード感を重視しますし、他社様同士の懇談なら広いお席に、親しい間柄でのご利用なら込み入った話しもしやすいように端のお席に……とか。どの時間帯にどういった間柄の方とお見えになったかを瞬時に判断し、いつでも快適にお過ごしいただけるよう接客をしています。その積み重ねで、ビジネスライクに使える場として長年ご愛顧いただけているのが私としても誇りです」。

都会的な要素もありながら、「いい意味での愁い」を持つのが有楽町の魅力

奥村さんは、幼い頃からおばあ様やお父様が働く背中を見ており、休日は有楽町で過ごしていたといいます。

「幼い頃、日曜は母と兄弟と一緒に店に遊びに来ていました。祖母と父の仕事が終わるのを待って、一緒に夕ご飯を食べに行くのが我が家の定番。昔はスバル座で何回も映画が観られたり、地下にゲームセンターもあって、店員さんが子どもにこっそりUFOキャッチャーのぬいぐるみをくれたり。都会ではあるけど、下町の雰囲気がありましたね。特に土日はビジネスマンもいなくてひっそりとしていましたし」。

この当時感じた「下町感」こそが有楽町らしさであると続けます。

「個人的には、有楽町が持つそういった親しみやすさとか、情趣溢れたいい意味での『愁い』が、この街の魅力かなと思います。銀座や丸の内のすぐ近くなのに、色が違いますよね。ちょっと脱力できるというか(笑)。ビジネスマンでも、お年寄りでも、子どもでも、どんな方も浮くことなく受け入れてくれる街だと思います」。

街が変わっても、変わらない「親しみやすさ」は滲み出るはず

有楽町と共に育った奥村さんから見て、人の流れの変化も感じているそう。

「私が跡を継いだ約10年前から仲通りが華やかになって、土日も賑わいだしましたね。喫茶店ブームも手伝って、建築面だけでなくフルーツサンドなどのメニュー目当てでご来店いただける機会も増えました」。

最近は、若い世代を中心に、「古き良きもの」に注目が集まる、昭和レトロブームも起きています。あえてレトロ感を演出したカフェが流行るなど、喫茶店文化に注目が集まる中、喫茶ストーンのお客様にも若い世代の方がグッと増えたとのこと。

「10代のお客様も増えて、本当に嬉しいです。ドキドキしながら入店されて、一生懸命スマホを見てメニューを決めてくださいます。その初々しさが微笑ましく感じますし、喫茶店ならではの良さを感じていただきたいので、接客する側としてもいつもと違う緊張感もあります。私はどちらかというと新しい煌びやかなカフェに憧れを持つのに、若い方々はその逆。古いことに対する良さを感じてくれるので、改めて、本物の歴史という土台を持つありがたさを感じますね」。

最後に、喫茶ストーンの現在地から見た、これからの有楽町への期待もお伺いしました。

「今の店内には現役のビジネスマンの方もいて、その隣には昔からのお客様もいて、若い方もいる。そういった様々な方が共存できるお店を目指していたので、徐々に実現できていることを嬉しく感じます。この店にも表れているように、有楽町は『両面性』がある街だと思っています。ビジネスとレジャー、オシャレと親近感、賑やかさと静けさ……。そういう点がドラマを生む街なのだと思います。これから開発が進み、街もさらに変化していきますが、有楽町が持つ、誰しもドラマの主役になれる親しみやすさは滲み出てくれると思います。建物や景色が変わっても、根底にある街らしさは変わらないはずだと、期待しています」。

Text: Emiko HishiyamaPhoto: Natsuaki YoshidaEdit: TOKYO GRAFFITI