大手町・丸の内・有楽町の人々にスポットライトをあて、この“まち”の現在・過去・未来を紐解いていきます。
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プレミアムな豆菓子を世界へ発信するumami nutsから見た 丸の内流コミュニケーション

umami nuts
店長 大野聖子さん

鹿児島に本社を構える創業60年余の豆菓子専門店・大阪屋製菓。老舗店ながらも新しい豆菓子を生み出し、挑戦し続ける中で、2018年にプレミアム豆菓子店「umami nuts」を丸の内仲通りの国際ビルにオープンしました。ここで働き、umami nutsの伝道師とも言える店長の大野さんに、現場から見たこの街の魅力についてお聞きしました。

「顔が見える」お客様が多い丸の内

umami nutsオープン当時から店長を務める大野さんはこれまで百貨店での飲食販売などを経験してきたそうです。
「前職では歴史ある佃煮屋に勤務していたこともあり、老舗の大阪屋製菓が『伝統』を大切にしながら『umami nuts』という新しいチャレンジをしている姿勢にシンパシーを感じました。店頭に立ち続ける中で、丸の内の街自体もまさに『伝統と新しさ』そのものだと実感しています。お客様もお若い方からご年配の方まで、本当に幅広い年代の方々にお越しいただいております。お若い方からすると、丸の内はもはや『なんでも揃う買い物の街』といったイメージで、逆にご年配の方は、商業施設のないビジネス街だった時代に働いていらっしゃった方が多く、なんでも揃う街になったことが不思議だとおっしゃられます。ただ、どんなお客様からも『丸の内が好き』というお声をいただきますね。道も広いですし、ゆったりとした街並みで、自分のペースで心行くまで買い物やお食事、自然、芸術を楽しめる街というイメージだそうです」。

職人の熟練の技と、最高級素材の掛け合わせで作り上げられるumami nuts。美味しい状態で召し上がっていただけるように、通常の豆菓子の約半分の期間である1ヶ月半という賞味期限が設定されています。

こだわりを持って作られた商品は、贈答品としての需要がとても高く、ビジネスマンや秘書、ご親戚への手土産に購入される方が多く、そのほとんどがリピーターとして何度も店舗に訪れてくださるとのこと。

「ありがたいことに、いわゆる『お顔が見えるお客様』が多いです。これは店舗に限らず、オンラインでご購入いただいているお客様も同じです。弊社ではオンラインでのご注文も私を始めとする店舗スタッフが対応しております。発送の際は、商品を送るだけではなく、必ず手書きメッセージを添えるようにしていますし、メールでのやり取りの段階で、状況をお伺いして商品や熨斗のご提案、ご確認など、一つ一つ丁寧に対応しております。その結果、オンラインでご注文されたお客様にわざわざ店舗にお越しいただくことも。『顔が見たくて来ちゃった』とおっしゃってくださったり、出産の内祝いでご注文されたお客様がお子様を連れて『こんなに大きくなったんです』とご報告してくださったり。本当に嬉しい限りです」。

老舗豆菓子店としての挑戦を、一流の街・丸の内で

また、umami nutsを展開する大阪屋製菓ブランドマネージャーの水野希さんによると、丸の内で立ち上げた経緯には、こんな意図があったとも語ります。
「日本の中心であり、一流のブランドがひしめく丸の内で、どのように評価されるかという挑戦ですね。私たちは、世界に誇る『うまみ』を豆菓子で表現し、まずは日本から、そして世界に発信していきたいという高い目標を設定しています。そのためにumami nutsは、大阪屋製菓が他のブランドで培った製法を元に、プレミアムな素材を使用するなどの『付加価値』を付けています」。

ここで言う「付加価値」とは、接客面にも及びます。世界に誇る商品を発信する場として、大野さんには心掛けていることが。

「私も含め、スタッフにも伝えて店舗全体で意識していることは、『まずは気付く人になる』ということ。お客様に何をしたら喜んでいただけるのかという点に、先回りして気遣いができるようになってほしい。例えば、基本的なことではありますが、雨が降りそうだったら雨よけのカバーをご提案するとか、お荷物が多かったらおまとめするとか。仕事は経験を積めば、自然とできるようになるので、『気遣い』こそ大切にしている部分です」。

一方で、丸の内のお客様に助けられている部分もあると、続けます。

「年末やクリスマスシーズンなどは、どうしてもお客様をお待たせしてしまうシーンもあるのですが、そういったときは、お客様にフォローしていただくことも。例えば、常連の方が初めてご来店いただいた方に味の説明をしてくださっていたり、試食を終えたトレーを下げてくださったり…。こんなにも私たちを受け入れてくれるなんて、本当に感謝は尽きませんし、感動してしまいます」。

地域への貢献は、人とのコミュニケーションから始まる

丸の内に出店して4年目。その間に新型コロナウイルスの蔓延もありましたが、こんなにもお客様に愛されているumami nutsだからこそ感じたことがあったそう。
「新型コロナウイルスを経験し、お客様にお会いできないことがこんなにも辛いことなのかと改めて実感しました。お客様からも『私たちは商品だけを買いに来ているわけじゃなく、会話を通して楽しい時間を共有したくて買い物に来ている』とお声をいただくこともあります。私たちが接客で担う、お客様とのコミュニケーションや信頼関係は、お金では買えない価値に貢献できている部分だと思います。これからも店舗という場を通して、ブランドのプレミア感を高め、広めていきたいですね」。

お客様との距離感を大切にしている大野さんが考える、丸の内とumami nutsのこれからとは。
「umami nutsの店舗が、唯一無二の商品を提供する場であるというのを前提に、これからも『人』を大切にしていきたいです。特に、店長の仕事は、まずは働いてくれているスタッフを大切にすることだと思っています。スタッフを大切にすることで、そのスタッフがお客様を大切にできて、商品が届き、ゆくゆくは丸の内の貢献につながるという連鎖が生まれるはずです。これは対面で接するシーンが減っても変わらないこと。店舗スタッフのつながり、丸の内で働く他の店舗様との横のつながり、お客様とのつながり。すべてを大切にしながら丸の内と共に歩んでいけたら、と思います」。

Text: Emiko HishiyamaPhoto: Natsuaki YoshidaEdit: TOKYO GRAFFITI