AATMは若手アーティストの発掘・育成を目的とした現代美術の展覧会です。18回目の開催を迎える今年は、全国18校から147点の作品がノミネートされ、審査会による選考のうえ、参加作家20名が決定。
4月25日のイベント初日には、コロナ禍を経て5年ぶりとなる丸ビル1Fマルキューブのオープンスペースで表彰式を執り行い、グランプリをはじめ、三菱地所賞など全10賞の受賞作家が発表されました。
01.受賞作家一覧
- グランプリ
- 高田マル(京都市立芸術大学 大学院)
- 今村有策賞
- 李 晟 睿智(東京藝術大学 大学院)
- 木村絵理子賞
- ソウ カヨウ(武蔵野美術大学 大学院)
- 後藤繁雄賞
- 高尾岳央(京都芸術大学 大学院)
- 小山登美夫賞
- 和田咲良(東京造形大学)
- 建畠晢賞
- 奥野智萌(東京藝術大学 大学院)
- 藪前知子賞
- 和田咲良(東京造形大学)
- フランス大使館賞
- 山口遼太郎(京都市立芸術大学 大学院)
- OCA TOKYO賞
- 本岡景太(東京藝術大学 大学院)
- 三菱地所賞
- 朝井彩華(女子美術大学)
02.アートアワードトーキョー丸の内(AATM)とは
行幸地下ギャラリーを中心とした、丸の内、有楽町、大手町エリアを会場に、若手アーティストの発掘・育成を目的とした現代美術の展覧会です。全国の主要な美術大学・芸術大学・大学院の卒業修了制作展を訪問し、その中から発掘したノミネート作品より、さらに厳選した作品を展示。審査員による最終審査を実施し、グランプリや審査員賞などを決定します。
過去のAATM情報はこちら:https://www.marunouchi.com/lp/aatm/
03.展示作品・作家紹介 ※20作品
朝井彩華(Iroha Asai) / 女子美術大学 <三菱地所賞>
Doomsday records
『私たちは崩壊と誕生に飲み込まれて生きている。「変化」と向き合い「生命」とは何か、思考する。』
安齋茉由(Mayu Anzai) / 女子美術大学 大学院
みどりの海(free park28)、みどりの海(free park27)
green sea(free park28)、green sea(free park27)
『自身が思う自由を描いている。今はみどりの海のような田んぼとドローイングの線、人の動きにそれをみている。』
磯崎海友(Miyu Isozaki) / 多摩美術大学 大学院
ラーメン依存症
Ramenaholic
『依存を描くことを通して、人の生き様を垣間見る。生きることを見つめる。私にとってはその行為自体がとてもポジティブなことだ。』
井手元咲良(Sakura Idemoto) / 女子美術大学 大学院
睡庭
Suitei
『私有地と外界との間に「理想の世界観」を創り出す“庭園”に共感を覚え、庭園における自然観や思想などを調べながら自身の思う「理想郷」を描いている。』
奥野智萌(Chiho Okuno) / 東京藝術大学 大学院 <建畠晢賞>
We are granules.
『「モチーフのデフォルメ」と「通訳」をキーワードに、自身を含めた生物の身体の異形性への興味を主軸に創作活動を行う。』
鈴木晴絵(Harue Suzuki) / 女子美術大学 大学院
〈あなたのための森〉積み木のチェック
Wooden Checkered
『事物に意味を付け縛るのは私。それを刻み、複製し、重ね合わせる。いつのまにか私から解放され森になる。あなたのための森』
ソウ カヨウ (soukayou) / 武蔵野美術大学 大学院 <木村絵理子賞>
エデンの夜
The Night Of Eden
『このシリーズ作品は修士課程の2年間で激しい感情が引き起こさせた物事を物語的に表現し、自分の精神世界をまとめた作品である。』
高尾岳央(Takehiro Takao) / 京都芸術大学 大学院 <後藤繁雄賞>
船
SHIP
『イメージがどのように機能するかを絵画で模索する。化石から生れる変更可能なイメージ、恐竜のような変化するイメージを目指す。』
高田マル(Mal Takada) / 京都市立芸術大学 大学院 <グランプリ>
祈りの言葉は今日も同じかたちをしている
The Prayers are in Their Usual Form Today
『絵を描き、絵を見せ、絵を見る。なぜ人間は、なぜ私は、この欲求を手放せずにいるのか。衝動を原初に向かって解きほぐしていく。』
趙 彤陽(Tongyang Zhao) / 京都芸術大学 大学院
愛、シミュレーション、背骨、電子辞書
love, simulation, spine, digital dictionary
『異なる言語を使う人と付き合った時、趙はAiツールで2人の交流と関係に介入してみた。この短くて悲しい恋の経験を基づいて、趙は今の時代の愛の神様の様子を創造してきた。』
土屋咲瑛(Sae Tsuchiya) / 京都市立芸術大学 大学院
ルームフルオブルールズ(スルー・ユー)
room full of rules(through・you)
『自分と目の合わない、かつてそこにいた人によって発された気配の波は、私に到達するも私の身体を通り抜け、私の存在を薄くする。』
当山希未(Nozomi Toyama) / 東京藝術大学
≪ ≫
『イメージして絵を描くのではなく、それよりも先に手を動かして描かれたものが絵のイメージになった。』
SHIMIZU KEN / 東京藝術大学 大学院
Rephotograph
『人が写真を目にするとき、多くの場合、被写体について話されることに気がつく。「~の写真」はみえないものとして扱われる。私は「~の写真」の部分に関心がある。』
原ナビィ(Nabbie Hara) / 東京藝術大学
ぶっちぎり
Haymaker
『ぶっちぎりの絵。楽しんで描いた。』
本岡景太(Keita Motooka) / 東京藝術大学 大学院 <OCA TOKYO賞>
Detach and Adhere
『ある時の紙の「ひと貼り」を貼り付ける瞬間、眼から視覚の単位を放つかのような感覚がやってきた。』
森田翔稀(Shoki Morita) / 東北芸術工科大学
にんげんっていいな
human is good
『そこに質量を伴って存在していなくても、意思が存在していなくても、顔が張り付くとちぐはぐな気配が漂ってくる。』
山口遼太郎(Ryotaro Yamaguchi) / 京都市立芸術大学 大学院 <フランス大使館賞>
そら ひかり
sora hikari
『日常に溢れる小さなひかりをモチーフに、陶土で小さく繊細な造形を行った。静かな場所にキラッと何かが光る場面や風景を表現した。』
兪 暁凱(Xiaokai Yu) / 女子美術大学大学院
ドキドキ
My heartbeat
『地元の方言、マンダリンと中国伝統的なシーツにより、「LGBQT+に関わること」について、家族からの考え、葛藤と当事者の本音、経験を表現した。』
李 晟 睿智(Yeji Sei Lee) / 東京藝術大学 大学院 <今村有策賞>
“Call me by my name”
『戦後の社会的逆境の中で多様なアイデンティティを抱えながら強く生き抜いた私の母と祖母の世代の韓国の母像を主題に描いている。』
和田咲良(Sakura Wada) / 東京造形大学 <小山登美夫賞・藪前知子賞>
ケルベロス
Cerberus
『人間のコミュニティに生じる問題を作品と観賞者の関係性を利用して再考し、空間に配置された手掛かりから相互交渉を試みる。』
04.審査員コメント(一次審査を終えて)
弘前れんが倉庫美術館 館長
木村 絵理子・Eriko Kimura
今年のファイナリストに選ばれた作品は、近年数多く見られたパーソナルなトピックから距離を置いて、美学的・造形的興味を追求する傾向が感じられました。繊細でささやかな作品の内にも、将来大規模な作品へと展開する可能性を秘めたものがあり、実際の展示になることを楽しみにしています。
編集者、クリエイティブディレクター、京都芸術大学教授
後藤 繁雄・Shigeo Goto
ペインティングの可能性を考える時、「外」に出て再び「内」に還ることが重要だと思う。それを試みる作品があり、希望を感じた。ソーシャリーな、切実で、かつ日常的アプローチも多く、さらなる深化が期待できる。コロナ以後の新次元の活性化が進んでいる。
小山登美夫ギャラリー 代表、日本現代美術商協会 副代表理事
小山 登美夫・Tomio Koyama
コロナ後のほぼはじめての卒業・修了の作品では、やはり身体性が強いもの、リアリティを感じさせるものが多かったと思いました。作品という実空間を使って展示という形式のもと、人が集まって作品を見てもらう機会がまた戻ってくる喜びをアーティストに味わってほしいです。
埼玉県立近代美術館 館長
建畠 晢・Akira Tatehata
一時期支配的であった表現主義的な傾向よりも、むしろそれぞれのアーティストのコンセプチュアルな問題意識を反映した作品が目立っていたように思われる。ともあれ、今が絵画の時代であることを強く反映したコンペティションであった。
東京都現代美術館 学芸員
藪前 知子・Tomoko Yabumae
今回の審査では、コロナ禍の特殊な環境の中で制作の第一歩を踏み出さなくてはならなかった世代が、どのように独自の表現に到達しているのかにおのずと注目することになりました。空間の欠落や身体の痛み、外界との違和感が一層研ぎ澄まされているのを感じ、とても刺激を受けました。
三菱一号館美術館 学芸員
野口 玲一・Reiichi Noguchi
この世代はコロナ禍に最もあおりを食ったのではないか。しかし今回の制作を観るとそれも悪くなかったように思える。閉じ込められたことで人との関わりについて意識的になりウィルスに脅かされることで身体がセンシティブになっている。結果として個々の表現の純度が高まった。美術教育の意味も再考する必要があるだろう。
東京藝術大学大学院美術研究科 教授
今村 有策・Yusaku Imamura
多くの若手アーティストのアワードは公募形式だが、このアワードは審査員側が全国の卒展会場を回り、作品を見てからポートフォリオ提出を依頼する。こちらから新しい才能を見つけに行くのである。そこがこのアワードのユニークなところであり、素晴らしい才能の発見につながっている。