1979年生まれ、福岡県出身。九州芸術工科大学大学院修了。株式会社ルーセントデザイン(LUCENT)代表。EMISSIONディレクター。
映像、照明、オブジェクト、インタラクションと、美的表現による光のインスタレーションを中心に、自ら制作する映像やライティング、プログラミングなど、多彩な表現やテクノロジーによるアートワークを一貫して手がける。
自然界の現象と法則性、イマジネーションによる繊細な光の表現とエモーショナルな作品群によって、都市や商空間のパブリックアート、世界各国のエキシビション、ラグジュアリーブランドのためのアートワークなど、国際的に幅広く展開している。
美術作品から公共・商業空間まで、光を使った彫刻やインスタレーションをさまざまに展開している松尾高弘さん。今回制作したのは、太陽の光を浴びて輝く花のプリズムが美しいインスタレーションです。視点の変化や太陽の加減によって表情を変える光の造形が、見る人を魅了します。
——今回の作品について教えてください。
タイトルは「Prism “Dahlia + Peony”」で、花をモチーフにしたプリズムインスタレーションです。窓ガラスの前にルーバー状にアクリルの板を立て、そこに片面ずつ、ピオニーとダリアの花のプリズムを配置しました。ピオニーは、花の形も丸く女性らしい柔らかな雰囲気があり空間を包み込むような雰囲気があります。ダリアはもっとエッジが利いていて、空間に刺激として作用する力がある形をしています。
——花をモチーフにした理由は?
私はいつも光を形にしたいと思って作っていて、今回は光のひとつの形象として花を選びました。花のプリズムは、それ自体が太陽光を受けて輝くと同時に、光をため込む造りにしています。花弁は半透明のプリズムシートでできているため風景が透けて見える一方、中心に近い部分は花弁の密度が高くなるので、光を凝縮します。本物の花は、太陽の光を浴びて色々な表情や色彩を見せてくれますよね。この作品もそんな花の表情を目指しました。。
——松尾さんは光をテーマにさまざまな作品をつくられています。今回のポイントはどんなところでしょう?
これは背後から自然光を受ける作品ですが、太陽の光って本当に難しいんです。人工照明で作品をつくる場合は、仕様を調整することである程度コントロールできるのですが、太陽光はそうはいきません。何より太陽光のパワーはものすごくて、人工とはまったく違います。このエネルギッシュなパワーをどれだけ作品に取り込めるかを考えました。また、「インタラクティブ(双方向性)」も大事なテーマで、私はこれを自然現象そのものだと捉えています。人と自然や都市の間には、いつもインタラクティブな関係があるからです。この作品も花のオブジェは固定されていますが、差し込む光の加減や見る位置、背後の風景によって見え方が変わる姿は、自然そのものだと言えます。一日のうちの時間帯、季節によっても変化する表情を楽しんほしいですね。
——丸の内のストリートギャラリーに参加するにあたって、意識したことはありますか?
「モダンであること」でしょうか。彫刻作品やインスタレーションには、時代によって変わる部分と変わらない部分があると思います。私の作品には最新のテクノロジーを使ったり、いまのムーブメントを取り入れたりしたものも多くありますが、それらには時代性が色濃く反映されます。一方、彫刻には時代に左右されない良さもあります。今回のように一定期間設置される場合は後者のほうが合うと考え、モダンさを意識してつくることにしました。
私は有楽町から東京駅にかけてのエリアがとても好きで、よく歩いています。なかでも、街が数年単位で変わっていく様子が強く感じられる仲通りは特に魅力を感じます。発展を続ける都市の中にタイムレスなアートが置かれることが、特別な経験を生み出すのではないでしょうか。
——展示室に置かれる作品と、パブリックアートの違いは何だと思いますか?
パブリックアートは、まず作品に気付いてもらわなければなりません。人が「いつもと少し違うかも?」と気になるような、ちょっとした違和感が必要です。そうやってなんとなく人々の意識に入り、いつの間にか引き込まれている。それが良いパブリックアートだと思います。今回は、設置場所である大手町ビルと調和し、なるべく風景と一体化する作品にしたいと思いました。細かい点で言うと、花を留める台としてアクリル板をルーバー状に配置しているのですが、あえて角を斜めにカットしました。すると、アクリルの小口に背景が映り込み、風景がスリット状に見えます。そこに花のプリズムが重なることで、通りがかる人がハッと気づく。丸の内という街に溶け込んだ作品が、日常に「輝き」という刺激をもたらしてくれるのです。
——今回のプロジェクトは、この作品が唯一ビルの中に設置されます。オフィスワーカーの方の目に触れることが多そうですね。
屋内だと、落ち着いて見ることができて良いですよね。丸の内は東京随一のオフィス街でもありますし、この作品は丸の内らしい場所にあると感じます。働く人たちが毎日目にすることで、この作品に愛着をもってくれたらうれしいですね。