彫刻家/Sandwich Inc.代表/京都芸術大学教授 1975年生まれ。京都を拠点に活動。2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程彫刻専攻修了。感覚に接続するインターフェイスとして彫刻の「表皮」に着目し、セル(細胞·粒)という概念を機軸に、彫刻の定義を柔軟に解釈し、鑑賞者に素材の物性がひらかれてくるような知覚体験を生み出してきた。
多様な素材の特性と最先端の技術を掛け合わせた作品を多く手掛けている名和晃平さん。今回展示していただく作品は街の風景がキラキラと映り込んでストリートギャラリーの中でも一際目を引く作品です。
——今回の作品について教えてください。
2011年頃から、3Dスキャンなどで得たデータを元に彫刻化する「TRANS」シリーズを作り始めました。“Trans-Double Yana(Mirror)”はその初期の作品です。
——今回この作品を展示することに決めた理由を教えてください。
「TRANS」シリーズは、リアルに存在する身体と、情報として存在する身体性が重なるような彫刻というアイディアを元に制作しました。情報の世界が遠い世界ではなく、その中にリアリティや身体性のようなものを見出していたからできた事だと思います。“Trans-Double Yana(Mirror)”を今あらためてこの時代に存在させることで、当時持っていた予感のようなものがどう表現されていたのか、自分でも見てみたかったんです。
——パブリックアートではある程度素材が限定されてくると思います。素材に合わせて作品を制作することもあるのでしょうか?
屋外環境に適合する素材がもっとあれば良いとは思いますね。今回の作品は、アルミの無垢材を機械で削り出しており、ソリッドで強靭な素材である一方で、傷はつきやすいです。アルミの特性上、展示していく中で多少変化はしていくと思いますが、磨いて表面をリセットできる利点があります。また、今回はナノテクノロジーを用いたナノコーティングを表面に施しました。今後このような技術が発達する事によって、耐久性が高められたり、屋外では使えなかった素材が使えるようになったりする可能性が出てくるのではないでしょうか。
——この作品を通して、パブリックアートの役割とはどのようなものだとお考えでしょうか?
社会が見ようとしている夢やビジョンは、繰り返し使われていく中で消費されることがありますが、それに対して止まって見ているだけではない見方が要るのではないかと思います。アートは、政治や歴史的背景のようなものと完全に切り離すことができないとしても、より自由な立場から表現ができるので、そこから常にずれていく、はみ出していく役割を担っているんじゃないかと思います。色々な意味合いを持つ本作は、現代で消費されないテーマを持っているような気がします
——最後に丸の内ストリートギャラリーについての印象をお聞かせください。
日本の街、特に都市において、ギャラリーやミュージアムといった限定された空間に囲い込んで価値づけするフォーマットは更新されるべきだと思います。パブリックアートは、人々が日常を共有している空間にアートが滲み出てくるものではないでしょうか。幅広い年代の方々からアート鑑賞を目的としていない方々まで、様々な方々の目に触れる環境の中に作品を存在させるということは、影響力のある大事なプロジェクトだと思います。