2004年、ヨーロッパの古都ウィーンに滞在制作中だったアンリが、古くからの友人であるピエールを呼び寄せたことをきっかけに始まったアートユニット。作品はあくまでも2人の楽しみから生まれたものであるため、あえて発表を行うことはなかったが、2008年に初めての個展をMISAKO&ROSENで開催。
アンリ・シャギャーンとピエール・シャギャーンの2人からなるH&P.シャギャーンは、2004年、これまでの名前を捨て一から出直す新人として、オーストリアのウィーンで結成されました。近代美術へのリスペクトを胸に取り組んだ、ユニット初の彫刻作品とは?
——今回の作品について教えてください。
ピエール(以下P):
今回のタイトルは《Matching Thoughts》と付けました。作品のアイデアは、2004年にウィーンで滞在制作をしていたアンリを訪ねて、一緒に制作をしたことまで遡ります。その時は、1つの絵につき単独の頭みたいなモチーフを描いていました。1つの絵の中に2体以上入れようとすると難しいんだけど、別々の絵をペアにして並べると良くて。いつか立体にしたいねと話していました。それで、今回は2体で1つの彫刻作品にしました。
アンリ(以下H):
シャギャーンの共通のエスプリは、近代美術へのリスペクトです。この作品では、ロダンのような近代までの彫刻の伝統が持つ造形的なことを踏まえつつ、よく見れば何かわかるかたちだけど、かといって単にビジュアルが目立つだけで終わりではないものを目指しました。現代アート好きの人からしたら、今回の作品はマテリアルも古いし、革新的な造形でもありません。でも、近代美術に魅力を感じている人にとっては、良い意味でのツッコミどころがあるんですよ。もちろん、根本には自分たちが何をつくりたいかという意志があります。ただ、ディテールやそのなかに潜むエスプリに、僕らが持っている近代へのリスペクトをどれくらい込められるかが課題だったし、この2体にそれを反映させていく作業はとても楽しかったですね。
——協働制作はどのように進んだのでしょう?
P:
話し合いはほぼなかったかな。僕が寝ている時にアンリが制作してて、アンリが寝ている時に僕が制作して。そこがお互いの“変える”チャンスなんですよ。
H:
自分がいいなと思って残していたところが、目覚めると削られていたり。僕は急いでつくるタイプなんだけど、いつも「アンリ、急ぎすぎちゃだめだよ」と注意されていました。ピエールはデッサンやらモデルやらを事前にいっぱいつくって、かなり準備をする。彼には、考えることを教わったね。
P:
今回の制作にあたって、素材はかなり検討しました。石膏、粘土、陶器用の土、石……結果としてモルタルを選んだのは良かったと思います。練りたての柔らかい時は粘土っぽいけれど、固まると石のように硬いのではつらないといけないとか、段階ごとに対応が変わっていく。そのやりにくさが、二人のちょうどいい接点になったかなと。
H:
粘土だといつでも形が自在に変えられるので、途中から体が勝手に動いちゃうんだけど、モルタルは時間がかかるので手も頭も体ごと使う。そういう思考の痕跡が彫刻の至る所に残っています。
P:
彫刻家からしたら当たり前のことかもしれないけど(笑)、新鮮で楽しかったよね。今回の経験を個人の制作に置き換えてみると、自分が逃げているなと気づいたところもいっぱいあって。これを機にまた初心に帰ろうと思います。
H:
シャギャーンの目指すところは“初心”だもんね。
——丸の内という場所で、どのように見てもらいたいですか?
H:
僕がこだわったところは、秘めた怒りを持つ人と聖人のような二者の関係です。若いツッパリ(リーゼント)と色々場数を踏んできた経験者(アフロ)の対比というか。モチーフやディテール以上に、この二者のコミュニケーションが伝わるようなものになればいいかな。
それから、僕らの意図が伝わるかどうかは関係なく、ストリートを歩いている人に覚えられるランドマーク的な存在になってほしい。3年間設置される予定ですが、それがなくなった時に、ああ…と哀しみに暮れるようなあり方というか。でも、なくなる方が逆にほっとするかな? 修学旅行で地方から来たヤンキーの学生がこの前で記念写真を撮ったり、リーゼントの下で雨宿りしたり(笑)、そういうのがいい。
P:
またリーゼントが復活したら面白いよね。リーゼントという名前も、髪形(後頭部の部分)がロンドンにある「リージェント・ストリート」を上から見た形に似ていることから来ていると言われているし、丸の内仲通りもそういうストリートになってほしいですね。