1988年、東京都生まれ。2012年女子美術大学大学院美術研究科美術専攻修了。楠を素材に油絵具で彩色した木彫作品を中心に制作。楠と対話しながら、その中にある形を彫り出すというスタイルで、彫刻や絵画を通じて独自の世界観を表現する。愛らしさや繊細さに加え、ときに恐れや荒々しさも内包した作品は、国境を越えて注目を集めている。国内外の個展や芸術祭に多数参加し、近年は平面作品にも積極的に取り組んでいる。
――今回の作品について教えてください
頭の中でぐるぐるとめぐる思考や空想、そしてその先に、少しずつ立ち上がる希望。内と外、都市と自然、想像と現実のあいだをめぐりながら、
揺らぎつつも確かに進んでいく心の旅路のようなイメージを込めました。自分の内側から生まれる新しい存在と、それを育む過程をかたちにした作品です。
――この作品を展示することに決めた理由を教えてください
まずは丸の内という都市の真ん中に、大きな顔をぬっと現してみたいと思いました。そして、屋外展示に耐えられるようにするため、ブロンズに置き換えて制作していますが、もともとは一本の大きな木から生まれている、ということが、より伝わるような作品にしたいと思い、
原型となる楠木ととことん向き合いながら、あまり明確な完成系のイメージをつくらず、形を決めていきました。真っ直ぐではなく、傾きながら伸びているのは、木の元のかたちをそのまま生かしたためです。傾きながらも、上へと向かって伸びていく姿に、成長の過程にある不確かさや柔らかさ、そしてたしかな希望があるという祈りを込めています。そして金色の渦のような輪は、チェーンソーで荒らしながらも、ほとんど、もとの木の太さをそのまま残した部分で、そこには過去の記憶や混沌、都市のざわめき、言葉にならない感情など、見えないものたちが渦巻く“境界”のような意味を込めています。今回の作品に限らず、私が普段扱う楠は、みな大木で、私たちよりも遥かに永くこの世に存在しています。チェーンソーで削り出す前には、必ずその木のこれまで生きてきた人生を考えずにはいられません。作品として、新たな命を吹き込みながらも、これまでの木の人生のようなものも残していきたいと思い、より、もとの木を感じてもらえるような作品にしました。大きな木をキャンバスのように、チェーンソーや鑿を筆のように、削りだしていく作業は、絵を描いていくイメージと似ています。一方で、今回はブロンズのもつ、不変的な強さも感じられるような形を、自分なりに色々と意識してつくりました。
――作品の見どころ、道ゆく人にどうみてもらいたいですか?
森の妖精や小人のよう、と言われる事も多い私の作品なのですが、私自身は緑の少ない都会の中で育ちました。そしてその分、昔から、頭の中に思い描いた森や自然と、都会の混沌とした様子が混ざり合い、空想と現実が交差するような、何かが“ぬっと現れる”気配を求めて、作品を作り続けてきました。今回、せっかく丸の内ストリートという、都市の中心のひらかれた屋外で展示していただける機会をもらったので、新しいことに挑戦しながらも、そんな自分の作品の原点に立ち返るべきだと思い、“ぬっと”地から現れるようなイメージの、自身のシリーズを発展させてみました。
国内で初めての屋外彫刻作品になるので、季節や時間や天候など、さまざまな環境の変化の中で、作品の見え方がどのように変わるのか、楽しみです。忙しく通り過ぎる人、のんびりと過ごす人、たまに通る子どもたち、賑やかで華やかな都市を歩く人たちの、みえない孤独に寄り添い、少しでも自分自身を想うきっかけとなってもらえたら、嬉しいです。